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いつかは醒める夢(ロゼ色の月つづき)


◆退魔兄弟とウィルとジェノ◆

 

 

そんなに寄り道をしたつもりは無かったが、日はすっかり落ちていた。念の為にランプも持ってはいたが、空には月が煌々と輝きジェノの足元に濃く影を映している。

後ろを振り返れば、白く光るように聳える天城の塔。月明かりに照らされ上空高く雲の中へと消える塔は、まるで天界へと続く導のようだ。

「天界、か……」

ジェノは溜息のように零した。

最近漸く天界への戻り方が判明したのだが、ジェノの心境は複雑だった。

落ちてきた頃は早く天界へ戻りたいと思っていた。しかしその時にはまだ戻る手立てがなく、仕方なく下界へ留まっていた。そう、仕方なく。それが今はどうだろう。天界へ戻る事に躊躇いがある。天界に残してきた家族の事も心配だ、けれど……。

『ワン!ワン!!』

考え事をしていたジェノは、玄武の吠(こ)えに驚き顔を上げた。玄武が威嚇している様子は全くない。寧ろこの反応は

「遅かったな」

前方から近付いてくるランプの灯り、その向こうには玄武の主タイクウの姿。

「おかえり」

満面の笑顔で玄武の頭を撫で、その流れのままジェノの頭もワシャワシャと撫で回される。そのまま前髪を掻き揚げられ、少し心配そうに顔を覗きこまれた。

「何かあったか?」

「いや、なにも」

ジェノがそう答えるとタイクウはそうかと笑い、玄武に括りつけてあった荷物を担いだ。次の瞬間、玄武は札になって消えた。札を懐に仕舞いながら、少しバツが悪そうにタイクウが呟く。

「ソウが帰ってきてるんだ。この事は、内密に……」

タイクウの言う『この事』とは玄武の事だ。ソウクウとタイクウの兄弟は揃って退魔師になったのだが、兄のソウクウは術式に長けており、弟のタイクウはそれらがめっきり駄目だった。その為、ソウクウからは修行以外で無闇に式を出さない様に言われているのだが、今回の様に重い荷物があると荷物持ちとして玄武を呼び出したり、手伝いとして白虎を呼び出しており、これらがバレると数時間に及ぶソウクウの説教が始まるのである。普段は家事・料理・畑仕事・力仕事erc・・・何でもこなし、飄々として見えるタイクウがこの時ばかりは歳相応に見え、ジェノは僅かに口元を緩めた。

 

ロッジまで帰り着くと、庭先のテーブルには既に料理が並べられていた。

「おかえりー、お先にいただいてるよ」

グラスを揚げウィルが挨拶をする。その隣に座っていたソウクウも箸を置いて二人を振り返った。

「悪かったね、言ってくれれば俺が買って帰ったのに。つーか、この馬鹿に買いに行かせれば良かったんじゃないか? どうせ暇してたんだろ?」

ソウクウはチラリとウィルを見る。その視線に気付いて、ウィルはソウクウを見るとニッコリと笑って見せた。こんな遣り取りはいつもの事で。タイクウもジェノも気にする事無く、定位置になりつつある席へ腰を下ろした。

「で、何を買って来たんだ? ビール、シャンパン、……わいん?」

タイクウはテーブルに1本1本並べながら中身を確認する。薄い桃色の瓶をまじまじと見て、へぇと呟きながらそれもテーブルに並べた。

「タイにはないチョイスだな!」

とさっそくウィルがワインに手を伸ばす。失礼なヤツだ、と言いながらもタイクウもグラスを差し出した。

 

食事も粗方終り、ソウクウが風呂へ入ると中へ引き上げ、タイクウも空になった食器を片付けに家の中へと消えていった。

少し冷たくなった夜の空気はアルコールを含んだ肌に気持ちがいい。ジェノはグラスを揺すりながら、最後の1杯となった薄桃色の液体をぼんやり眺めていた。ふとウィルが口を開く。

「叶えたい恋でもあるのかい?」

タイクウは基本的に流行り事にはさっぱり疎い。それに比べウィルはそういった流行り事やイベント事はよく知っているタイプで、当然、ジェノが先刻酒場で聞いたアノ話も知っていたのだろう。

深い意味はない――そう答えても良かったのだが、そうあしらってしまうには今の心地はなんだか勿体無かった。ジェノはポツリと零した。

「恋の先には、何があるんだろうな……」

向いに座り、テーブルに肘を付いていたウィルとグラス越しに視線が交じる。

「だったら叶えてみれば?」

更に唇が言葉をカタチにするが音はない。

   恋してるんだろ?

 

「どうした?」

戻ってきたタイクウが不思議そうにジェノとウィルを見る。いやなんでもない、とウィルはグラスに残っていたビールを流し込んだ。ジェノも、何か意を決したようにグラスの中身を一気に空けると、すっと立ち上がった。

「タイ、片付けはウィルがやってくれるってさ」

ジェノはそう言いながらチラリとウィルを見やり、くるりとタイクウの方へ向き直るとニッコリと笑った。一瞬戸惑ったタイクウだったが、ウィルを見ると呆れた様に手を振るので、ジェノに引かれるまま家の中へと消えていった。

「その先が判ったら、俺にも教えてくれよな」

そう呟くとウィルは空になったグラスを月に傾けた。

 


行き当たりばったりバンザーイ(死)

こんなオチじゃなかったハズなんだが……。(ルートは大体あってるw)

部屋に戻ったジェノとタイクウがいちゃいちゃするところまでは書くはずだったんだが、もうオレには続ける気力が、ない……あと、ソウとウィルの話もあったような気がするんだが、いつの間にか消えている!

つか、オマケとかの長さじゃなくなってる!!