◆ジンとフリック◆
ジェノと別れテーブルに戻ってきたジンはとりあえず連中の騒ぎを治め、食事を再開した。が、箸は思うように進まない。
『満月の夜にロゼを飲むと恋が叶う』
フリックの言葉が脳裏に響く。
「恋、か……」
ポツリと零れた音は店の喧騒に飲まれて消えた。
ジンが気付いた時には、テーブルの上に並べられていた酒も食事もキレイさっぱり片付けられていて。どうかしたか?と心配してくれているアッシュに、なんでもないと返すのがやっとだった。
その後、アッシュとレイヴはすっかり酔い潰れてしまったセンを担いで、店の上にある宿へと引き上げていった。テーブルにはジンとフリックの二人だけ。
「じゃ、俺も部屋へ……」
とジンが腰を上げるのを遮るようにフリックが声を掛ける。
「ジン、 かないそうかい?」
両目の光を失ったジンからは、フリックの表情は詳細には読み取れない。だが、音はジンを思いやるような響きを含んでいて。
「かないませんねぇ」
店を去るジェノの姿に足元のボディーガードを思い出し、ジンはそう呟いて苦笑してみせた。
『恋が叶わない』のと『タイクウに適わない』の二段オチ!
ジンたん不幸ポジション。