夜空を見上げる。
流れる星。
幾つも、幾つも。
空に光の線を描きながら、闇に消える。
カズマはボーッと星空を眺めていた。空には幾つもの流れる星。流星群。星が流れ、消える度に思い出される、大切な人の儚げな笑顔。
あれは何時だっただろう。
あの時も星が流れていた――。
「ンだよ!? こんな夜中に」
「空見てみろよ、カズマ!」
寝ていたところを叩き起こされ不機嫌なカズマ。イライラを視線に乗せて君島に送り付けるが、君島は慣れてしまったのか、気づかないのか、そんなカズマの様子は全然気にしていないようだった。
「大量の流れ星、流星群だぜ?」
「りゅう、せい……?」
君島の言葉にカズマはゆっくりと空を見上げた。
叩き起こされ、君島の車に押し込まれ、連れて来られたのは村から少し離れた小高い丘。
強烈に照らすような光が一切ないので、星の一つ一つがとても綺麗に見えた。
視界の端で何かが動く。暫く見ていると、また。星が流れ、闇に消えて行く。
カズマが初めて眼にする光景。漆黒の空に線を描いて、星が闇に溶ける。その様子はまるで異世界を思わせた。
「そいや、カズマは、流れ星に願い事をすると叶うって話、聞いたことあるか?」
口を開けた侭、空を眺めるカズマに君島が声を掛ける。
「聞いたことあるけど、明らかに胡散臭いよな」
「そんなこと言うなんて。夢が無いよ、カズマくん」
君島は言葉尻を上げて、カズマをからかう様に悪戯っぽく笑った。
そんな君島の笑顔を見て、カズマはクーガーにも同じことを言われたのを思い出す。
『流れ星が流れている間に願い事を言うと願いが叶うのを知ってるか、カズヤ?』
『カズマだって何回も言ってるだろ! 間違えンなッ!! 序に、願いが叶うなんてそんな嘘みたいな話、あるワケねぇよ!』
『力一杯否定するなよ、夢がねぇなぁ』
そう言いながらクーガーは苦笑した。
『ま、実際叶うか叶わないかは流れ星に願いをかけてからだ。その時がきたら、試してみろ。きっと叶うから』
『なんで叶うなんて言い切れるんだ?』
クーガーは怪訝そうに自分を見詰めてくるカズマの頭を撫でる。
『それはこの俺が叶うと言ってるんだ、叶うに決まってる! そう、世界で最高、最速で最強の男! ストレイト・クーガーが……』
流れ星の話をしていたはずだったが、最終的にはクーガーの早口に頭が痛くなってしまい、カズマはその場から逃げる様に布団に潜ったのだった。
人間、以外とくだらないことを記憶出来るんだなと、カズマは思った。
数年前の出来事が鮮明に残っている。自分には良くも悪くもある記憶だった。
星が流れるだけの、長い沈黙。
ふと、君島が気になり隣に眼を遣る。君島は黙って流星を眺めていた。その眼はカズマが今迄に見た事の無い、優しい眼差しだった。
星を見詰めていた君島だったが、突然、カズマを振り返る。だがその表情は何時ものものだった。
「なぁ、カズマ。願い事しようぜ、願い事」
一瞬、君島が何を言ったのか理解出来ず、カズマは固まってしまった。
「こんだけ星が流れてるんだ。どれか一つは願いを叶えてくれるかも知れねぇぜ?」
本気とも冗談とも取れる言葉。そして、微笑。
「無駄なんじゃねぇの? まぁ、願う分にはタダだからな」
カズマは君島に応えるように、悪戯っぽい笑みを返した。
その夜、流れる星に幾つも願いを掛けた。
最初の方は、『金持ちになれますように』とか『強くなりますように』といった漠然とした夢のような願い事から始まり。それから段々と『良い生活が送れますように』とか『金になる仕事が来ますように』とか『美味いものがたらふく食いたい』等の現実味を帯びた願いへと移行していった。
そんな願いを掛けながら、二人は一番中星空を眺めていた。
夜空を見上げる。
流れる星。
幾つも、幾つも。
空に光の線を描きながら、闇に消える。
カズマはボーッと星空を眺めていた。空には幾つもの流れる星。流星群。
あの時は君島と2人で見上げ、幾つも掛けた願い。
クーガーは言っていた。願いは叶うって。
最初は嘘だと思っていた。確かに、下心ばかりの願いは叶えられなかったが、今思えば些細な願いは叶っていたように思う。
一人で見上げる流星群。
あの時に願い叶った夢。
強くなりますよに。
そして……『君島の優しげな視線が自分にも向けられますように。』
ついこの間迄は気付きもしなかったが、願いは確実に叶えられていた。
無くして、今やっと、気付いた――。
君島の眼が優しく自分を見ていてくれたことに。
カズマは流れる星々に願いを掛けた。
あの時のように。
ただ一つの想いを込めて。
もう一度、君島に会いたい……
丁度、流星群ブームだったので、それに乗っかってみたもの。
密かにTVアニメの『寺田あやせ(17話)』に続いてたりします。
アニメ観てない人には解らない、そんな放り投げオチ。