· 

01/君カズ(+劉)SS


依頼された仕事をこなし、荒野にポツンと置いてある車に向かう途中。何かの気配にカズマが足を止めた。

「どうしたんだ、カズマ?」

君島が問うてもカズマは答えない。何かを睨み付ける様に、只黙って一点を見詰める。見詰める先に何が在るワケではなく。岩山が聳えているだけ。

君島には何となく解っていた。きっとカズマの視線の先にはアノ男、劉鳳という男が居る。

カズマは本能だけで感じていた。アイツの、劉鳳の存在を。感じる気配、揺るぎ無い力、隠し切れない存在感とオーラ……。本能が劉鳳との闘いを求める。

カズマは黙って見詰め、経ち尽くす。徐々に感じた気配に感化されたのか、カズマの中に熱いモノが燻り始める。カズマの身体を不思議な力が包み始め、髪の毛が揺れ始めた。まるでアルターを発動させる直前の様な光景――。

と、咄嗟に君島がカズマの肩を掴んだ。それに驚いた様にカズマが振り返る。

「な、何だよ、君島?」

「ナニって、ほら、オマエが……」

「? 俺が、どうかしたか??」

先刻迄の自分の状態を誤魔化すのか、本当に解ってないのか。君島は後者だろうと思った。本人も理解していない本能の根底で、カズマは闘うコトを求めている。

君島は苦笑した。

「いンや、何でもねぇよ」

そしてポツリと付け足した。

「オマエ、どっか行っちゃいそうだったからさ」

「バーカ、何処にも行くワケねぇだろ!? かなみも、オマエも心配だからな!」

そう言ってカズマは何時ものように笑った。そんなカズマの笑顔も、遠いモノの様な気がして――君島の胸は切なさで一杯になる。

「何処にも行くなよ、カズマ」

思わず女々しい台詞が口から零れた。君島は慌ててカズマの様子を伺う。カズマは笑ったり冷やかすコトも無く、只。

只軽く、掠める様なキスをした。

「そんな心配しなくても、何処にも行かねぇよ? だから、こうして居るンだろ?」

カズマはそう言うと、照れ隠しなのか、車の助手席に急いで乗り込んだ。そして一つ息を吐くと君島に声を投げ掛ける。

「早く帰ンねぇとかなみが心配するだろ? 早くしろよ、君島ぁ!!」

驚き固まっていた君島だったが、その声にやっと我に返る。

「今行くよ!」

まだ少し赤いかも知れない頬を軽く叩き、急いで車に乗り込んだ。

君島が荒野に車を走らせながら想うのは、助手席に座っている我侭な姫さんのコトばかり。

 

 

あのキスで『繋ぎ止められてる』のは自分

そして『何処にも行かない』のは嘘

カズマが嘘を吐くようなヤツじゃないのは解ってる

ケド、潜在的にある闘いを求める本能は止められない

きっと何時か居なくなる、旅立ってしまう

あの赤い翼で

果ての無い闘いの旅路へ

俺の手の届かないトコロへ――

 

だけど今だけは…… その時が来る迄は――