「!! 遊戯ッ!」
呼びとめる声が聞こえたかと思うと、遊戯の後へ回り込む様に城之内が身を潜めた。驚き、思わず表と裏の人格が入れ替わる。
「ど、どうしたんだ!? 城之内君」
「お、追われてンだよ」
誰に……と聞くまでも無く、その城之内を追っていた人物が遊戯の前に姿を現した。
「……海馬……」
「遊戯、何故貴様がココに……」
遊戯が居るコトに驚く海馬。そして城之内を見る。
「どう言うつもりだ、城之内!!」
海馬の声に城之内の身体がビクリとする。その揺れは背中から遊戯に伝わっていた。
「どういう経緯かは知らないが、城之内君が明らかに怯えている。手を引いて貰おうか、海馬」
「これはオレと城之内の話だ。『無関係』な貴様は黙っていてもらおう」
あからさまに『無関係』という言葉を強調し、遊戯をあしらう。が、遊戯はその言葉にカチンときた。海馬の存在の無視を決め込み、城之内と会話をはじめる。
「一体どうしたんだ? 海馬と何があったんだい? 城之内君」
背後で海馬が何かを怒鳴っているが、遊戯はお構い無しに城之内を構う。
「……海馬が、言えって……」
城之内は頬を赤らめて俯き、ポソポソと言葉を紡ぐ。
「何を言わせようとしたんだい?」
遊戯の心境としては、城之内が可愛いくて今すぐにでも攫いたい勢いなのだが。そんなコトをしてしまっては、背後に居る人物となんら変わらなくなってしまう、と全神経を集中して踏み止まっていた。しかし、そんな遊戯の想いは儚くも打ち砕かれる。
優しく問うてくる遊戯を軽く上眼に見ながら、城之内は頬を紅潮させ呟く。
「……い、し……てる……って………」
城之内の囁きは、聞こえるか聞こえないかの凄く小さな囁きだったが、遊戯をキレさせるには十分だった。
「海馬! 貴様!!」
「一部始終ちゃんと話してやったらどうだ、城之内?」
遊戯が振り返り見た海馬は。 先刻迄、背後で何か怒鳴っていた様な姿では無く。何時もの余裕を見せた海馬が威圧的に立っていた。
「……? どういうことだい、城之内君??」
城之内を振り返り見る。城之内は困った表情で海馬を見詰ていた。
「そこに居るトンガリ頭より、オレが好きだと言ったらどうだ? 城之内」
「な、何言ってンだ! 馬鹿!!」
顔を真っ赤にしながら怒る城之内。そんな城之内も可愛いと思っている辺り、遊戯もバッチリ腐敗が進んでいる。
「では、嫌いか?」
そう発せられた海馬の眼に威圧的な色は無く、普段とは違った視線が城之内に向けられる。城之内はぐっと息を呑んだ。
「え!? ンな、嫌いなんて……」
困った様に海馬から視線を外しながらも、明らかに好きですオーラを発している。この城之内の仕種に大ダメージの遊戯。神の一撃にも匹敵する破壊力だった。
「なら、こっちに来い。もう、無理には言わせん」
海馬はそう言って手を差し出す。城之内はおずおずとその手を取った。
「……あ、じゃ……遊戯、また明日な」
そして一人取り残された遊戯。やっと馬鹿ップルの痴話喧嘩に巻き込まれたコトに気付いたのだった。
この事件をきっかけに、遊戯が打倒海馬に闘志を燃やしたとか、燃やさないとか。